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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)206号 判決 2000年3月16日

原告

株式会社ミツトヨ

代表者代表取締役

訴訟代理人弁理士

被告

特許庁長官E

指定代理人

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が平成10年審判第11882号事件について平成11年5月17日にした審決を取り消す。」との判決。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成3年4月5日、名称を「変位測定装置」とする発明(本願発明)について特許出願したが(平成3年特許願第102016号)、平成10年6月26日拒絶査定があったので、同年8月5日審判を請求し、平成10年審判第11882号事件として審理されたが、平成11年5月17日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年6月16日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

固定要素に対する可動要素の移動速度に追従可能な周波数よりも低い周波数のクロックによって動作して前記固定要素に対する前記可動要素の絶対的な変位に応じた信号を出力する変位センサと、この変位センサの出力に基づいて前記変位の量を示すデータを生成出力する信号処理回路と、これらを駆動するための太陽電池とを備えた変位測定装置。

3  審決の理由の要点

(1)  審決認定の本願発明の要旨

前項のとおりと認める。

(2)  引用刊行物

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-213604号公報(引用例)には、次のことが図面と共に記載されている。

「本発明の目的は、従来のノギスの使い勝手の良さを維持しつつ迅速且つ高精度の寸法測定を可能とする静電容量型デジタルノギスを得ることにある。」(2頁右下欄12~15行)、

「第1図は本発明の一実施例を示す斜視図、・・・である。

図において、本尺2の一端部、即ち、図における左端部には一方のジョー4が形成されており、前記本尺2の表面側にその長手方向へ整列する目盛6が付されている。

前記本尺2には、スライダ8が前記本尺2の長手方向へ移動可能に装着されている。」(3頁右上欄5~13行)、

「また、前記本尺2の裏面側には本尺2の長手方向に沿って第1の電極を構成する受信電極26が埋設されており、この受信電極26の表面を覆うように絶縁材28が設けられている。・・・前記受信電極26が本尺2の裏面側に設けられたことに対応して送信電極30、出力電極32及び計測回路40等がスライダ8の裏面側に配置され、これに伴ってスライダ8の前面側及び側面側にはスペース的に余裕ができ、従って前記スライダ8には、その表面側にデジタル表示器34及び本件の特徴的構造である光電変換器としての太陽電池36が夫々設けられ、・・・その内部にはコンデンサからなる蓄電器38及び計測回路40が内装されている。」(3頁右下欄4行~4頁左上欄2行)、

「前記計測回路40は、前記第1の電極である受信電極26と第2の電極である送信電極30とから送出されて、出力電極32によって検出される静電容量信号を計測して前記本尺2と前記スライダ8との相対移動距離に対応した出力を送出する回路手段を構成するものであって、これら受信電極26,送信電極30,出力電極32及び計測回路40は静電容量エンコーダを構成しているものである。」(4頁左上欄11~19行)、

「また、静電容量型エンコーダを用いているから、光電型エンコーダに比較して消費電力が小さいので小容量の電源で済み、本実施例のように太陽電池36を用いる上で都合がよい。」(5頁右上欄11~14行)、

「前記実施例にあっては、静電容量信号の位相変化を分析する方式の静電容量型エンコーダを用いた例を示したが、これは、静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダを用いても良い。」(6頁右上欄4~8行)

(3)  審決のした対比

そこで、本願発明と引用例に記載された発明とを比較すると、引用例の「本尺2」「スライダ8」「静電容量型エンコーダ」「計測回路40」「静電容量型デジタルノギス」がそれぞれ本願発明の「固定要素」「可動要素」「変位センサ」「信号処理回路」「変位測定装置」に相当することは明らかであるから、両者は、「固定要素に対する可動要素の変位に応じた信号を出力する変位センサと、この変位センサの出力に基づいて前記変位の量を示すデータを生成出力する信号処理回路と、これらを駆動するための太陽電池とを備えた変位測定装置」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1 本願発明のものは、「固定要素に対する可動要素の絶対的な」変位センサの出力に基づいて前記変位の量を示すのに対し、引用例には、引用例のものが絶対的な変位センサであるとは明記されていない点。

相違点2 本願発明のものは、「移動速度に追従可能な周波数よりも低い周波数のクロックによって動作して」変位に応じた信号を出力するのに対し、引用例には、クロック周波数についての記載がない点。

(4)  審決のした判断

相違点1について:

固定要素に対する可動要素の絶対的変位を測定する変位センサは周知(必要であれば、拒絶の理由に引用した実願昭57-176662号(実開昭59-100593号)のマイクロフィルム、特開昭59-204708号公報参照)のことにすぎず、また引用例に、「静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダを用いても良い。」と記載されていることは上記のとおりであり、該記載は絶対的変位センサを引用例のものに適用可能であることを示すものであるから、上記相違点の構成とすることは、上記周知技術を勘案して引用例から当業者が容易になし得る程度のことである。

相違点2について:

絶対的変位センサが、クロック周波数にほぼ依存せずに測定が可能であることは、可動要素の測定時点での位置を測定するという絶対的変位センサの原理からみて明らかであり、またクロック周波数を低くした場合に容量等に起因する漏洩電流が少なくなるであろうことは自明のことにすぎないから、引用例のような消費電力の減少との目的を更に進めて、上記相違点の構成とすることは当業者が任意に設計し得る程度のことである。

そして、本願発明が奏する作用効果は引用例に記載された発明及び周知技術から当然に予測し得る程度のものである。

(5)  審決のむすび

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(相違点1についての判断の誤り)

(1)  引用例の「前記実施例にあっては、静電容量信号の位相変化を分析する方式の静電容量型エンコーダを用いた例を示したが、これは、静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダを用いても良い」という記載は、どの物理量に基づいて変位を検出するかを問題にしているのであって、二つの要素間の変位を位相変化で検出しても、静電容量値自体で検出してもよいということを開示しているにすぎず、インクリメンタル型の変位センサの代わりに絶対的変位センサを用いてもよいということを開示しているのではない。

すなわち、インクリメンタル型の変位センサには、静電容量の値自体の変化を計測する方式のものだけでなく、静電容量信号の位相変化を分析する方式のものもあり、また、絶対的変位センサにも、静電容量の値自体の変化を計測する方式のものと、静電容量信号の位相変化を分析する方式のものがある。絶対的変位センサであるかどうかは、測長範囲内で唯一の物理量が得られるかどうかという問題であって、検出する物理量の種類とは無関係なのである。

よって、引用例につき、「静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダを用いても良い」という記載が、絶対的変位センサを引用例のものに適用可能であることを示すものである、とした審決の認定は誤りである。

(2)  被告は、引用例の「静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダを用いても良い」という記載は、「位相変化を分析するエンコーダに代えて、値自体の変化を計測する周知の装置を転用可能であることを示すものと理解できる」と主張するが、「静電容量の値自体の変化を測定」する変位センサが絶対的変位センサのことを指すものではないので、被告の主張は誤りである。すなわち、

① 静電容量の値自体の変化も周期信号として現れることがあり(例えば、特開平5-45108号公報(甲第8号証))、引用例は、そのような「静電容量の値自体の変化」を計数するインクリメンタルタイプの変位測定装置への適用を示唆したものにすぎない。

② インクリメンタル計数とアブソリュート計数とは、検出する物理量を異にするものではなく、検出された物理量に対する処理を異にするものであることを示していることからも、値自体の変化を計測する周知の技術として、絶対的変位センサは、審決認定のとおり周知であるとする被告の主張は誤りである。

③ 乙第1号証(特開昭63-24125号)は、絶対的変位センサが公知であることを示すものであっても、周知であるということを示す証拠とはなり得ないし、また、乙第1号証は「値自体の変化を計測する技術」を示すものでもない。

2  取消事由2(相違点2についての判断の誤り)

(1)  変位測定装置で使用される絶対的変位センサは、ピッチの異なる複数のトラックのスケール情報を読み取り、それらを合成して全長にわたる正確な絶対位置を検出しているところ、各トラックのスケール情報は、同じ位置で読み取らなくては正確な測定値が得られず、また各トラックのスケール情報のサンプリングは、消費電力の関係からずれたタイミングで行われるので、スケール情報の読み出しに使用しているクロック周波数は、可動要素の摺動時を考慮して、最もピッチの細かいトラックと摺動速度との関係から決定される。このため、絶対的変位センサであっても、その測定は、クロック周波数に依存して行われる。

すなわち、変位測定装置で使用される絶対的変位センサにおいて、スケール情報の読み出しに使用しているクロック周波数は、ある程度高くしないと、可動要素が摺動している際に各スケール情報の位相を読み出す時刻が大きくずれてしまい、複数のスケール情報の合成を的確に行うことができず、表示値が不正確になるので、最もピッチの細かいトラックと摺動速度との関係で決定される。

したがって、「絶対的変位センサが、クロック周波数にほぼ依存せずに測定が可能であることは、可動要素の測定時点での位置を測定するという絶対的変位センサの原理からみて明らかであり」とした審決の認定は誤りであり、このことを前提とした審決の相違点2に関する判断は誤りである。

(2)  審決は、相違点2につきさらに、「引用例のような消費電力の減少との目的を更に進めて、上記相違点の構成とすることは当業者が任意に設計し得る程度のことである」と認定している。

しかしながら、(1)で述べたように「絶対的変位センサが、クロック周波数にほぼ依存せずに測定が可能であることは、可動要素の測定時点での位置を測定するという絶対的変位センサの原理からみて明らかで」はなく、また、変位測定装置の消費電力の減少を図るために、クロック周波数を低くするということ、及び、定クロック周波数を低くするために、絶対的変位センサを選択することは、本願発明の出願以前には行われておらず、さらには、本願発明は、このような構成を備えることにより顕著な作用効果を奏することができるので、変位測定装置において、相違点2の構成を設けることは、当業者が任意に設計し得るものではない。

(3)  絶対的変位センサは測定のためのクロックを移動速度に関連して上げる必要がないことは、引用例から直ちに想起されるものではない。また、絶対的変位センサがクロック周波数にほぼ依存せずに測定が可能であることは、可動要素の測定時点での位置を測定するという絶対的変位センサの原理からみて明らかであるとすることもできない。

第4審決取消事由に対する被告の反論

1  取消事由1について

引用例には「前記実施例にあっては、静電容量信号の位相変化を分析する方式の静電容量型エンコーダを用いた例を示したが、これは、静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダを用いても良い」と記載されており、この記載は位相変化を分析するエンコーダに代えて、値自体の変化を計測する周知の装置を転用可能であることを示すものと理解される。そして、値自体の変化を計測する周知の技術として、絶対的変位センサは、審決に記載したとおり周知であり、したがって、上記周知の絶対的変位センサを転用することは当業者が容易になし得たことであるとした審決の判断に誤りはない。

本件出願前の一般的技術水準を示す乙第1号証(特開昭63-24125号公報2頁右上欄17行ないし左下欄12行)には、相対測定に絶対測定が置き換え可能であることが記載されており、この記載からも、審決の上記判断が正しいことが明らかである。

2  取消事由2について

(1)  本願発明の「移動速度に追従可能な周波数よりも低い周波数のクロック」の技術的意義とは、「従来のインクリメンタルな計測装置においてみられるような、固定要素に対する可動要素の移動につれて変位を計測するものは、この移動速度に対応できる周波数のクロックを選択する必要があるのに対し、本願発明が選択した周波数のクロックは、本願発明が絶対的な変位を計測するものであるから、上記移動速度に対応できる周波数のクロックよりも低い周波数で変位の検出を行うようにすることができる程度の周波数のクロック」であると理解することができる。

上記理解を前提にすると、インクリメンタルのものは移動速度に依存してクロック周波数を変える必要があるのに対し、本願発明に用いられているような絶対的変位センサは「変位」した位置と「静電容量の値」に対応関係があり、移動速度とは関係なく可動要素の測定時点での位置が測定可能なものであるので、測定のためのクロックを移動速度に関連して上げる必要がない。審決においては、このことを「絶対的変位センサが、クロック周波数にほぼ依存せずに測定が可能であることは、可動要素の測定時点での位置を測定するという絶対的変位センサの原理からみて明らか」と説示したものである。

(2)  本件出願前の一般的技術水準を示す乙第1号証(特開昭63-24125号公報)に「更に、絶対測長によれば、・・・スケールの相対移動の間は何ら測長作用に寄与せず、この結果、スケールの移動遠度に制約が与えられることがない。」(乙第1号証2頁右下欄末行ないし3頁左上欄4行)との記載があり、この記載により、「変位測定装置の消費電力の減少を図るために絶対的変位センサを選択すること、及び、絶対的変位センサを選択することによりクロック周波数を低くすることが可能であること」が、本件出願時における当業者の認識であったものと理解することができる。

(3)  原告は「変位測定装置で使用される絶対的変位センサーのクロック周波数は、最もピッチの細かいトラックと摺動速度との関係で決定される」と主張するが、可動要素の測定時点での位置を測定する周知の絶対的変位センサが、移動時の速度に対応できる周波数より低いクロック周波数で測定が可能なものであるという事実には変わりはないので、この主張は、審決の判断に関係するものではない。

第5当裁判所の判断

1  本願発明の概要

甲第3号証及び第4号証によれば、本願発明の明細書に以下の記載があることが認められる。

〔産業上の利用分野〕

本願発明は、ディジタルノギス、ディジタルマイクロメータ、ハイトゲージ等の小型計測器に適用される変位センサを使用した変位測定装置に関し、特に内部の電子回路を太陽電池によって駆動するソーラタイプの変位測定装置に関する。(当初明細書の発明の詳細な説明【0001】)

〔従来の技術〕

従来、計測値を液晶表示装置等に表示するディジタルノギス、ディジタルマイクロメータ、ハイトゲージ等の小型変位測定装置は、静電容量式の変位センサ等を使用した低消費電力タイプのものが一般的である。このため、最近では電源に太陽電池を利用したソーラタイプの変位測定装置も開発されている。(同【0002】)

〔発明が解決しようとする課題〕

しかしながら、従来のソーラタイプの変位測定装置では、変位センサからの出力を計数することによって変位量を求めるインクリメンタル方式を採用しているため、暗所において太陽電池の電力が不足すると、現在までの計数値が消失してしまい、再度計数値をリセットした後でないと計測を再開することができないという問題がある。また、暗所に置かれた計測対象の測定が不可能であるという問題もある。

一方、このような電力不足に対処するため測定装置に二次電池を内蔵したものもあるが、この種の小型計測装置では、スペース上の制約から二次電池としてあまり大きな容量のものを用いることができない。このため、短時間の電力不足には対処可能であっても、暗所に比較的長い時間放置しておくと、二次電池が放出してしまい、計数値が消失するという問題点がある。

さらに、上述したインクリメンタル方式の変位センサを使用した場合、スライダの摺動速度に追従可能なように計数用のシステムクロックの周波数をある程度高める必要がある。このため、消費電力が大きくなってしまい、太陽電池の負荷が増すという問題点もある。(同【0003】)

本願発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、低消費電力で光の少ない環境下でも測定可能であり、暗所に長時間放置したのちにおいても計数値をリセットすることなしに直ちに測定を再開することができる変位測定装置を提供することを目的とする。(同【0004】)

〔課題を解決するための手段〕

本願発明に係る変位測定装置は、固定要素に対する可動要素の移動速度に追従可能な周波数よりも低い周波数のクロックによって動作して前記固定要素に対する前記可動要素の絶対的な変位に応じた信号を出力する変位センサと、この変位センサの出力に基づいて前記変位の量を示すデータを生成出力する信号処理回路と、これらを駆動するための太陽電池とを備えたことを特徴とする。(平成10年4月10日付け手続補正書で補正された発明の詳細な説明【0005】)

〔作用〕

本願発明によれば、太陽電池を使用したソーラタイプの変位測定装置において、変位センサとして絶対的な変位の量を出力するいわゆるアブソリュートタイプのセンサを使用しているので、太陽電池に所定量の光が当たった時点で直ちにその絶対的な変位量を読み取ることができる。したがって、インクリメンタル方式のように計数値を蓄えておく必要がなく、そのための二次電池も不要であるとともに、測定に先立って計数値をリセットする必要もない。

また、本願発明によれば、変位センサがアブソリュートタイプであるから、クロック周波数が可動要素の摺動速度に追従しなくても測定値に何ら影響を与えない。このため、クロック周波数を従来よりも低くして消費電力の低減を図ることができるので、少ない光量下でも測定が可能になる。(当初明細書の発明の詳細な説明【0006】)

2  取消事由1について

(1)  審決は、引用例の「静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダを用いても良い。」との記載は、絶対的変位センサを引用例のものに適用可能であることを示すものであると認定する。

しかしながら、甲第2号証によれば、静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダに関する引用例の記載は、審決が指摘する上記記載以外にはないことが認められるし、また、上記静電容量の値自体の変化を計測する方式のエンコーダが絶対的変位センサを示すことを認めるべき証拠もない。したがって、審決が指摘する引用例の記載において、絶対的変位センサを引用例のものに適用することが可能であることが示唆されているとした点は、にわかには是認し難い。

(2)  ところで、乙第1号証によれば、特開昭63-24125号公報の発明の詳細な説明に、次のとおり記載されていることが認められる。

「しかしながら、このような相対測定では手軽に測定値を得ることができず、特に携帯用のノギスその他においてはその操作性の上からも絶対測定が強く要望されていた。」(2頁左下欄9行ないし12行)

「従って、従来の相対測定装置は操作性が悪く、また電力消費が大きいために電池駆動される小型の測定装置としては電池寿命が短く、・・・問題があった。

また、前述したごとく、相対測定においては、両スケール間の移動速度が早くなると、処理速度が追従できずにミスカウントを行うという問題があり、移動速度に制約が与えられ、あるいは交流信号の周波数を十分に高くし、及び検出回路の処理速度を十分に高めなければならないという問題があった。

一方、絶対測定によれば、・・・絶対測定は測定値を求める時のみ電源を接続すればよいために、電力消費が著しく少なくなり、バッテリ駆動型の小型測長器を可能とし、更に太陽電池等のような電源容量の小さいバッテリでも十分に測長器を駆動できるという利点を有する。

更に、絶対測長によれば、両スケールの相対位置が定まった時に両者の静電容量を測定するので、スケールの相対移動の間は何らの測長作用に寄与せず、この結果、スケールの移動速度に制約が与えられることがないという利点がある。

従来において、静電容量を用いた絶対位置測定トランスデューサは特開昭54-94354(米国特許第4420754号)として知られており、」(2頁左下欄末行ないし3頁左上欄7行)

(3)  これらの記載によれば、相対測定では手軽に測定値を得ることができず、特に携帯用のノギスその他においては、その操作性の上からも絶対測定が強く要望されていたこと、相対測定においては両スケール間の移動速度が速くなると処理速度が追従できずにミスカウントを行うという問題があったこと、静電容量を用いた絶対位置測定トランスデューサは特開昭54-94354号(米国特許第4420754号)に記載のものとして既に知られていたこと、絶対測定は測定値を求める時のみ電源を接続すればよいために電力消費が著しく少なく、太陽電池等のような電源容量の小さなバッテリでも十分に測長器を駆動できること、絶対測長によれば両スケールの相対位置が定まった時に両者の静電容量を測定するのでスケールの移動速度に制約が与えられることがないことなどの事項が、本件出願前に広く知られていたものと認められる。

この事実によれば、本件出願前において、本願発明の技術分野においては周知の絶対測定を採用することが強く要望されていたものと認めることができるのであり、引用例に、絶対的変位センサについての記載がないとしても、引用例に記載された発明において、相対的な変位センサーに代えて、絶対測定を採用するときには必然的なものであることが自明な絶対的な変位センサを採用することは、当業者にとって格別の困難性はないものと認められる。

(4)  したがって、審決が、引用例に記載の発明において、相違点1の構成とすることは、周知技術を勘案して引用例から当業者が容易になし得る程度のことである旨判断した点に誤りはない。

3  取消事由2について

(1)  原告は、絶対的変位センサであっても、その測定はクロック周波数に依存して行われるから、審決の「絶対的変位センサが、クロック周波数にほぼ依存せずに測定が可能であることは、可動要素の測定時点での位置を測定するという絶対的変位センサの原理からみて明らかである」とした審決の説示は誤りであると主張する。

本願発明の要旨によれば、本願発明の絶対的変位センサは、「固定要素に対する可動要素の移動速度に追従可能な周波数よりも低い周波数のクロックによって動作して前記固定要素に対する前記可動要素の絶対的な変位に応じた信号を出力する変位センサ」と規定されているのであり、そこで使用されるクロックは「固定要素に対する可動要素の移動速度に追従可能な周波数よりも低い周波数」であって、クロック周波数の下限についての限定はいない。

そうすると、本願発明の絶対的変位センサは、クロック周波数に依存しないのであり、審決の上記説示に誤りはなく、原告が取消事由2の(1)で主張する点は理由がない。

(2)  上記(1)の説示に加え、特開昭63-24125号公報の前記認定に係る記載、特に、「更に、絶対測長によれば、・・・スケールの相対移動の間は何ら測長作用に寄与せず、この結果、スケールの移動遠度に制約が与えられることがない。」との記載によれば、変位測定装置の消費電力の減少を図るために絶対的変位センサを選択すること、及び、絶対的変位センサを選択することによりクロック周波数を低くすることが可能であることが、本件出願時において、当業者の一般的な認識であったものと認められることを合わせれば、原告が取消事由2の(2)で主張する点も理由がなく、審決が、引用例に記載の発明において、相違点2の構成とすることは、引用例から当業者が容易になし得る程度のことである旨判断した点に誤りはない。

第6結論

以上のとおりであって、原告主張の審決取消事由は理由がなく、原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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